パイナップル通信

毎日元気にのびのびと、時々立ち止まって考えるメモ

Let it goからこぼれ落ちた歌詞 (アナと雪の女王/ネタバレ注意)

ここのところかの太(8歳)がLet it goのyoutubeを見たがって、何度も再生しています。かの太は日本語吹き替えで見たので松たか子さんの歌い上げるバージョンを聞いています。ディズニーが「一緒にうたおうバージョン」を出しているので、カラオケみたいに歌詞が出て子どもも一緒に歌えて楽しいです。

 

で、私は字幕で見たのでオリジナルの歌で見たんですけど、なんか、日本語バージョンの歌詞って大事なとこぬけてないか?と気になり始めた訳です。イントロのあたりはそれほどかけ離れてないものの盛り上がりがはじまるあたりから、ん?足りなくない?となるわけです。まずはこのあたり。

(歌詞)

戸惑い傷つき
誰にも打ち明けずに
悩んでたそれももう
やめよう

Don't let them in,
don't let them see
Be the good girl you always have to be
Conceal, don't feel,
don't let them know
Well now they know

 

日本語の方だとエルサはなんだか一人でくよくよ悩んでたんだけど、もうやめよう!みたいになってますけど、英語だと完全に誰かからの期待や抑圧をうけていたことが顕著です。人を信じず、人から能力を隠し、いつも”(ききわけの)いい(女の)子”でいなさい、などかなりな抑圧ぶり!これを続きのサビでぶちこわすわけです!

 

Let it go, let it go
Can't hold it back anymore

Let it go, let it go
Turn away and slam the door
I don't care
what they're going to say
Let the storm rage on.
The cold never bothered me anyway

 

”Let it go"でもう”(期待を裏切るという恐れや今までの抑圧を)手放す!我慢できない!他の人がなんと言おうとかまわない!”という流れな訳です。一方日本語は

 

ありのままの 姿見せるのよ
ありのままの 自分になるの
何も恐くない
風よ吹け
少しも寒くないわ

 

…なんか自己完結というか、くよくよしてたのも自分、でもそれを認めるありのままの自分、みたいな自分に終始してる感じがちょっと…なんでしょうね、オリジナルの今まで演じさせられてた自分をぶちこわしてたたき壊して周りがどうなろうと私は私の道を進むの!みたいな感じは消えちゃってるんですよね。

なんか往年の名曲キャンディキャンディ感ありますね。そばかすも鼻ぺちゃもきにしないけどちょっぴりさみしいけど笑ってキャンディ!みたいな。私はキャンディも嫌いじゃないですけれども、さすがに2014年に70年代からヒロインのかたちが進化してないのはまずくないか?

 

あとここも気になる。

冷たく大地を包み込み
高く舞い上がる思い描いて
花咲く氷の結晶のように
輝いていたい
もう決めたの

これってなんか非常に抽象的に逃げてますけど、内容的にはあんまり何も言っていない。輝いていたい、もう決めたの!ってなにを?”輝く”って便利だね…抽象的(中身ない…)(そういえばどっかの政府は女性が輝く社会をめざしてるんだっけね…おっと横道)

 

英語はこちら

My power flurries through the air into the ground
My soul is spiraling in frozen fractals all around
And one thought crystallizes like an icy blast
I'm never going back, the past is in the past

英語はMy power, My soulが主語でどんどん力がみなぎってきて、過去の自分と決別する非常に主体的な歌詞で、そこがいいのに…

 

そして、〆がこれですよ。

これでいいの
自分を好きになって
これでいいの
自分を信じて
光浴びながら
歩き出そう
少しも寒くないわ

 

これでいいの…いいのよ…って自分を慰めてるみたい。本当にそう思ってる?って聞きたくなるし、最後の少しも寒くないって言ってるのもなんか負け惜しみっぽい。例えるなら「♪もう恋なんてしないなんて、いわないよ絶対〜」的な負け惜しみ感。

 

それに対して英語は…

Let it go, let it go
And I'll rise like the break of dawn
Let it go, let it go
That perfect girl is gone
Here I stand
In the light of day
Let the storm rage on

The cold never bothered me anyway!

 

今までの(みんなにとって都合の良い)完璧は女の子はもういない!私は光の中自分の脚で立っている!嵐が吹き荒れたって寒さだって私にとってはもともとなんでもないんだし!というね…完全にみんなの期待を裏切ることに対する恐れや抑圧に対する勝利宣言です。

 

なんかいろいろこぼれ落ちちゃってるんですよ、日本語バージョン。もちろん訳やストーリーや語呂合わせの限界もあるだろうし、訳詩として素敵にまとまってると思います。よくこれだけまとめたなー、さすがプロって感じです。松たか子さんの歌い上げもすばらしいし、かの太もあれだけ夢中になるということはやはり魅力のある歌詞なんだと思います。Let it goを安易に英語でながさなかったのも偉いと思う。でも…でも!!!あの抑圧から解放されるエルサの気持ちをもっとギュンギュン感じる歌詞が欲しかった!と思うのは私だけでしょうか。

もしかしたら、オリジナルの歌詞だと日本の観客には鼻っ柱が強すぎる女性像だと思われてしまう!まずい!と、故意にやわらかくキャンディキャンディ的自己完結をさせた、っていうのは穿った見方ですかね。

 

Let it goは2013年のアカデミー歌曲賞を受賞しています。たまたま授賞式の放送を見かけたのですが、作曲されたのはご夫婦で、受賞されたときのコメントも作詞家らしいミュージカルの歌詞のようなとても素敵なものでした。その中で、この曲はふたりの娘への愛情にインスパイアされて書いたもので、恐れや恥(fear  and shame)から自由に生きて欲しいとコメントされていました。

アメリカの夫婦が自分たちの娘にこう生きて欲しいと願って書いた詩は、日本では受け入れられない価値観、ということなんでしょうか?この歌の本当のメッセージがいまエルサごっこをしている女の子たちにどこかで伝わることを願っています。

 

*翻訳の専門家ではまったくありませんので、かなりの超訳です。誤訳等あるかもしれませんが、細かいところは汲み取ってください。こりゃ全然違う!というものがあればご指摘ください。

 

*アカデミー歌曲賞授賞式


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